In Rainbows Re:review
来日公演が終わってもう1ヶ月以上立っているわけですが、あれは遠い過去のようでいて、ほんの数日前の出来事でもあったような・・・回想録と名づけて記事を書きましたが、その評について「あっさりしてるね」と知人に言われたのだけど、いやいやライヴ評はやはり難しいものぞ。NudeやVideotapeの感動、Pyramid SongやHow To Disappear Completelyの美しさ、The BendsやBlow Outのパワーを一体どう言葉に表せって??
昨年、In Rainbowsが出て2週間後に区切りとしてレビューを一度書いたのですが、今読み返してみたら、あの時In Rainbowsに己が感じたのは「美しさ」と「懐かしさ」ということだった。美しさはともかく、どうして「懐かしさ」だなんて書いたのだろう。
OK Computer、KId A、Amnesiac、Hail To The Thief。これら過去のアルバムから発せられる印象というのは大抵深刻で、ヘヴィネスで、極端なものだ。その突出した部分こそがRadioheadをRadioheadたらしめる特徴であり、己にとっては飽きの来ない魅力。しかし時に、例えば美術館で厳重にガードされた作品を鑑賞しているような気分になるときがある。(もちろん、そうでないときもある)
対してIn Rainbowsには、自然体で、時に困難や痛みを共有できる家族や昔からの親しい友人を思わせる、親密で穏やかな空気が流れている。そういう意味で、In Rainbowsは血が通った「人間的」なアルバムなのだと思う。当時感じた「懐かしさ」の真実は、郷愁というよりかは心地よさに通じた表現だったのだろう。
それでもやはり曲の合間からは、指のあいだからすっと落ちていくような儚さ、手にしたものもいつかは失われてしまうかもしれないという漠然とした不安のイメージがふつふつと湧いてくる。そう聴かせるのは、楽曲の構造云々より、トム・ヨークの歌声の素質なのかもしれない。
さて、アルバムの内容もさることながら、In Rainbowsは出自もその後の進路も一風変わっていた。
世界的レコードレーベルを離れてから、ウェブを機軸に様々な分野へ派生して、自由にアイデアを展開していったRadiohead。「あなた次第だ」と言葉が添えられた自由価格設定と、リスナーにも音楽メディアにも同じタイミングで発表されるという、今までに経験したことのないリリース方法。大晦日の新曲フル演奏のウェブキャストに、専用のSNSの立ち上げ。Google Codeと連動し、最新技術を用いて製作・公開された「House of Cards」のミュージックビデオ。オリジナルの楽曲を再構築して新たな価値を見出せるような、ユーザー主体のコンテストも行われた。リミックス・コンテストでは、iTunes Music Storeでオリジナルの楽曲をばらして各パートごとに個別販売するという、大企業に属するアーティストであったならば考えられない企画が公に実現した。
In Rainbowsとともにバンドからもたらされたキーワード、「あなた次第」。
この言葉は、新作の価格設定を任せるということ以上に、リスナーに音楽の送り手と受け手の関係を再認識させたかったバンドからのメッセージでもあったのだと解釈している。
蛇足ではあるが、そんな刺激的な試みの陰で過去のレーベルから発売されていた、バンドの協力を得ないままのあのベスト盤。来日もあったことだし、まぁそれなりに売れているのでしょうか。先日、あのベスト盤の曲順で曲を聴いてみたのですが・・・うーん。
ということで今日は、メイリオ導入によって加筆訂正の必要があった過去の記事をめくっていて思いついたよしなしごとを綴ってみました。今年はもうウェブキャストないのかなー?
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