「In Rainbows」と、15の夜空を越えて。
ただいま、24日の夜。ちょうど「In Rainbows」が届いてから、2週間経ちました。
少し前に、焼いたCDRをコンポが読まないからMacでしか曲を聴けないとぼやいていましたら、それを知って知らずか奇跡的に15年目のVictor爺が奮起してくれて、3度に1回は再生してくれるように
なったのです。奇跡!(が、オールリピートまでは力及ばず手動でやっています)10日の評価でのマイナス15ポイントは消し。それでも結局、ここ2週間のうちは「In Rainbows」はiTunesで聴く事が多かった。どうしても何曲かは音が割れるように聴こえて「もうこれはこういう仕様なのだ。しょうがない。」というダジャレをぐっと飲み込みつつ。
今日はちょうど2週間という切りのいい日だったので、iTunesの再生回数を見てみたら、あらら! 思ったより再生している! トータルで71回転していました。14日間で割れば、1日5回転?! 仕事の日はともかく、休日は特によく聴いてたからなぁ。というわけで、14日間「In Rainbows」がしっかり浸透したところで、ちょっと考えをまとめるべく、ひとつ書いてみます。長文になるので、興味のある方だけどうぞ。
しかし、何なんだろう? 「In Rainbows」の持つ、この恐ろしいほどの中毒性は。
何度も何度もリピートさせて聴いている。PCで聴く時も、もちろんリビングの大きい方のスピーカーで聴けば、回数を重ねるにつれ、音の層の深さに意識が集中して、ぐいぐい惹き込まれる。20日に一言書いたとおり、己はやはり、このアルバムにはさほど「革新さ」は感じられない。(「ではお前の言う『革新』は何なのだ?」と問われれば、それこそ「Kid A」の存在がそうだった) 「Jigsaw Falling Into Place」 なんて、どういうわけか、聴いていて1stアルバム収録の「Blow Out」を思い出したくらいだったもの。
デジタルとアナログの融合が巧みな点は、一つ前の「HTTT」で結実した方法論(”ライヴでも活きる音”)を踏まえた応用であるように思えるし、生の声で録られた部分とエフェクトが細やかに施された部分がミックスされたボーカルトラックと、楽器のそれぞれのトラックも丹念で、それらの微に入り細にわたった絶妙な位相加減は「Kid A」のレイヤー構造。メロディの美しさと存在感は、私の大好きな「OK Computer」、そして「The Bends」に及ばんとする勢い。
どの曲もこれらの特徴がよく表されているが、なかでも圧巻なのはラストの「Videotape」という曲。
トムの声は最初、耳元で静かに歌っているかのように、とてもはっきりとリスナーに届くのだけど、ピアノの旋律、規則的なリズム、コーラスに徐々に埋もれて、歌い手は意識の届かない、遥か彼方に消えてゆくイメージ。聴いていて「The Tourist」という美しい曲を思い出す。
そうだ。この音の表現と歌の表現の両者が紡ぐ「美しさ」こそ、最初に己がRadioheadの音楽に見出した絶対的価値であったのだ。「Kid A」以降、多少、技巧面に重きを置いてきたRの音楽性が一巡して戻ってきたという印象。だから不思議と「懐かしさ」を感じさせるのか?
構成については、トム曰くアルバムは「曲順を死ぬほど考える」のだそう。今回は10曲、計42分ちょっとと「Pablo Honey」並に短い。ひとつ前の「HTTT」は14曲とボリュームたっぷりだったわけだけど、常々「『The Gloaming』を境に二部構成のアルバムである」と感じていて、アルバムを聴いていて、いつも「The Gloaming」で一息ついてしまう。同じ事を雑誌かなにか、どこかの誰かも言っていたような記憶があるな。っていうか、「The Gloaming」(黄昏)という名の曲が境界線だなんて、これこそトムの仕組んだ伏線じゃないの〜?と邪知してみたり。
冗談はさておき。コンパクトなアルバムだけど、曲順に関しては、当然今回も「死ぬほど」考えたのだろう。きれいな曲が多いので、大人しく収まっている感も無きにしもあらずだが、油断するなかれ。「In Rainbows」は・・・「停止ボタンを押せないアルバム」。うーん、初めての境地です。
最初にも書いた「In Rainbows」の中毒性。
そのこころは、過去6枚のアルバムの経験と技術、そして表現の集大成。
光の分散から生じる虹。光は全ての色覚の成分を含み、それらが混じり合って白色に見えている。
「rainbow」の語源は「rain(雨)」と「bow(弓)」。弓状になって空にかかる橋。
彼方から此方へつなぐ道。過去から現在、未来までも一条の光の道で。
混沌の世、人の心の移ろいはプリズマティックで、だけど決して美しいものではなかったり。
何か理由のがあっての「In Rainbows」なのでしょうか?
歌詞に関しては、いまだに全部消化しきれていないので、ここでは言及できませんが、ただ一つ、第一印象としては、確実に意識の表現がシンプルになってきている。シンプルというのは平易という意味ではなく、率直という意味で取ってください。相変わらずのレトリック・スタイルではあるのだけれど。
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